雑学

芋焼酎一筋の中村酒造場が芋よりももっと大切にしているのはアレ

  1. HOME >
  2. >

芋焼酎一筋の中村酒造場が芋よりももっと大切にしているのはアレ

私は芋焼酎が好きだ。
好きなお酒は色々あるが、あえてどれかと聞かれれば芋焼酎と答える。

しかし情けないことに、今まで芋焼酎の酒蔵を見学したことは無かった。

 

そんな中鹿児島県霧島市にある中村酒造場で、酒蔵見学だけでなく杜氏さんに話を聞く機会があった。

今回は「芋焼酎一筋の中村酒造場が芋よりももっと大切にしているのはアレ」と題し、中村酒造場のこだわりについて、取締役の中村慎弥さんに色々と質問をぶつけてみたので、それをまとめていこうと思う。

当時イメージの良くなかった日本酒の現場で働くことは、色々な意味ですごく勉強になった

今回お話をうかがったのは、有限会社中村酒造場の若き杜氏であり取締役の中村慎弥さん。

中村さんは東京農業大学で焼酎はもちろんのこと、日本酒やワインや味噌、醤油などなど、発酵や醸造に関わるものは4年間で一通り学んだそうだ。

 

しかし座学で身につけられることには限界があると感じ、大学卒業後は約2年間山形県にある日本酒の酒蔵で修業。

そして、2012年頃に中村酒造場に戻ってきたそうだ。

 

中村さんが日本酒の酒蔵にいた頃、世の中は焼酎ブームであり、日本酒のイメージは決して良くなかった。

そんな中で日本酒産業はどうしていたかも勉強したかったそうだが、結果的に他のお酒の現場や状況を知ることで、焼酎への理解もより深まったとのこと。

 

焼酎=強いお酒。おっさんが飲んでるイメージ

日本酒を知ることで、より鹿児島の芋焼酎の素晴らしさを理解したという中村さん。

しかし、一般の人に焼酎を飲んでもらった時に、「今までは苦手だったけど、美味しいですね」と言ってもらう機会が非常に多いと中村さんは語る。

 

知らない人にとっては焼酎は強いお酒で、いわゆる大五郎やビッグマンなど、おっさんが飲んでいるイメージが強いことも誤解を招く要因になっているのかもしれない。

そして、焼酎というと大抵は甲類焼酎をイメージする人が多い。
甲類焼酎と乙類焼酎については、こちらの記事にまとめている。

関連記事
【今さら聞けない】焼酎の甲類と乙類とは?他にどんな種類がある?

キミは酒をたしなんでいるだろうか? 大人の男の楽しみの1つとして、酒を挙げる人は多い。 飲めないことを否定はしないが、飲めたほうがコミュニケーションや世界が広がることは確かだと思う。 もちろん、限度を …

続きを見る

 

キミが知らない場合のために念のため説明すると、甲類焼酎は無味無臭で癖の無いただのアルコール。

対して乙類焼酎は芋、麦、米などが使われて素材の特長が味に反映されており、それぞれに個性がある。

 

甲類焼酎との決定的な違いは、「乙類焼酎の背景には農業がある」ことだという。
世界で支持されているお酒には農業があり、そこに技術などが合わさって素晴らしいものができあがる。

 

芋焼酎は世界で一番健全な「大人のカルピス」

焼酎ブームの頃には、焼酎単体で楽しむような土壌はそんなに無かったと中村さんは語る。
しかし、それなのに焼酎が脚光を浴びたのは、健康志向に合致した部分が大きいのかもしれない。

そして「芋焼酎は世界で一番健康的で健全な嗜好酒」とのこと。

 

養命酒などと比べると意味が違うが、味わうためのお酒でありながら健康にも気を遣えるという意味では世界で一番かもしれないそうだ。

私も知らなかったが、芋焼酎は糖質もプリン体もゼロなだけでなく、血液がサラサラになる成分が赤ワインの1.5倍も含まれている。

 

中村さんは「大人のカルピス」と称していたが、糖質が無い分個人的にはもっと良いものに思える。
濃さや割り方は自由自在で、最近私も炭酸割りにハマっている。

中村さんも炭酸割りは好きだと言うが、中村酒造場の芋焼酎はあまり炭酸割りには適していないそうだ。

 

そして飲み方は自由で構わないが「そこに愛があってほしいです」という、作り手ならではの言葉をいただいた。

 

本格手造り焼酎を名乗るための3つの条件

中村酒造場の焼酎は「本格手造り焼酎」という名前を冠している。
ちなみにこれ、どんな焼酎でも気軽に名乗れるものではなく、3つの条件が必要になる。

 

1、木の空間があるか
2、木箱があるか
3、自然換気であるか

という3つである。

 

こちらは中村酒造場の麹室(こうじむろ)と呼ばれる木の空間。

置かれた木箱にはすべて麹が入っている。

ちなみにこの部屋に入った瞬間、むわっとした熱気を感じた。
麹の保管のために温度管理をしているのかと思ったら、麹からの熱とのこと。

実際しゃがんでみると、足元は涼しかった。

 

「麹は生きている」とはよく言われるが、身をもって貴重な経験ができた。

 

年に数回しかない日本酒の大吟醸を仕込むレベルの作業が、中村酒造場では日常

中村酒造場では、大きく3種類の芋焼酎を作っている。

地元向けの玉露(ぎょくろ)、それより少し上質な甕仙人(かめせんにん)、そして最上位の「なかむら」。

 

ちなみに玉露については、大政で飲み放題させていただいた。

関連記事
【太っ腹にもほどがある!】鹿児島のやきとり大政がサービスしすぎ

私自身、結構色々な飲み屋を訪れた自負があるが、まだまだ知らない素晴らしいお店はたくさんある。 鹿児島県霧島市のやきとり大政を訪れ、改めてそんなことを実感した。 地元の人はもちろん、県外の人も足繫く通う …

続きを見る

一応価格帯も違う3種類の焼酎だが、仕込みの方法はまったく同じ。
しかも中村さんが戻ってきて驚いたのは「山形の日本酒蔵では大吟醸を仕込むレベルの作業が、中村酒造場ではすべての酒に対して行われていた」こと。

 

日本酒は一般的に、大吟醸、吟醸、特別本醸造という順でランクがあるが、中村さんの修業した日本酒蔵では大吟醸クラスは年1回程度の仕込みだったそうだ。

大吟醸はこのくらいのサイズの箱で仕込むらしい。

 

他の酒蔵がないがしろにする中、創業当時からずっと大切にしてきたアレ

中村酒造場では、他の酒蔵がないがしろにするものを昔から大切にしてきた歴史がある。

焼酎造りにおいては麹菌がアルコールを作るわけではなく、酵母が麹菌を食べてアルコールを代謝するのがメカニズムになっている。

 

人間の身体で例えるなら酵母が人間の身体で、麹菌がご飯ということになり、ご飯を食べてかく汗がアルコールで、おならが二酸化炭素と中村さんは話してくれた。

そのため、酵母に何を食べさせるかが焼酎造りにおいてはすごく重要らしい。

 

実際現代で言えば牛や豚がどんなエサを食べて育ったのかが重要視されるが、戦後や昭和初期などは「家畜のエサ」なんて言葉があるくらい、気を遣われていないことがほとんどだった。

そしてそれは、焼酎造りにも同じことが言えるそうだ。
要は「アルコールになるなら麹なんて何でも良い」という考え方である。

 

昔はタイ米を使っていたがそれも美味しくなるからではなく、安いし作りやすいことが主な理由だったらしい。

美談のように語られることもあるが、これは中村さんがその当時に働いていた人たちから実際に聞いた話なんだそうだ。

 

しかし、当時はそれが当たり前。
誰もおかしいと思わないし、作ることに一生懸命で余裕が無かった部分もあるかもしれない。

ほとんどの焼酎蔵が「麹にこだわっています」と言わないのは、そういう時代背景もあるらしい。

 

しかし中村酒造場はそんな時代背景の中にあって、芋ではなく米にこだわった


そのためバカにされるようなことも多かったらしい。
どのぐらいこだわったのかというと、通常の約5倍くらいのお金をかけたそうだ。

 

当時はある意味賭けのような部分もあったかもしれないが、時を経て、焼酎のメカニズムがわかるにつれ、中村酒造場にとっての素晴らしい価値へとつながった。

 

芋焼酎の旨味、甘味には油が大きく影響する

ちなみに中村酒造場にある蒸留機は、こちらの1台のみ。

「これが壊れたらウチは終わりです」と笑顔で言っていた。
ちなみに、中村酒造場では焼酎はこんな感じで生まれてくる。

泉が湧くように、じわじわとした感じだった。
そしてこちらは、蒸留された直後の芋焼酎。

近くに行くと、まさしく芋焼酎という強烈な匂いがした。

中村酒造場の焼酎を飲んだお客さんの九割以上の第一声は「甘い」だそうだ。
しかし、先ほど書いたとおり芋焼酎は糖質もプリン体もゼロ。

製造工程の中で、甘い成分を入れるものは存在しない。
なのにどうして甘いのか?

 

中村さんが色々調べたところ、答えはにあった。
油分が味わいに大きく影響しており、焼酎には油の成分が2種類あるそうだ。

1つ目の表面に浮いてくるような油は芋から生まれ、これは良くない油なので取ってあげる必要がある。

※写真ではわかりにくいが油が浮いている。

 

これはフィルターなど使わず、地道に手作業で取り除いている

そして2つ目の表面には浮いてこず、液体に内蔵されて白濁させるような油。
これは旨みの成分を膨らませるものだが、なんとそれが米油

 

タイ米は乾燥しているため、酒は造りやすいがほとんど油が無いそうだ。
しかし中村酒造場では地元霧島市のヒノヒカリという米を丁寧に使っており、米の甘みや美味しさも焼酎の魅力を上げている。

 

中村さんの目指す酒は、ズバリ「あまく、やさしく、やわらかく」
それが一番難しいそうだが、飲んだ人がそう感じ、色んな人に愛される焼酎を作りたいと熱く語ってくれた。

 

リスペクトを込め、最上位クラスの「なかむら」をロックでいただいた感想

取材が終わって鹿児島から帰った後、中村さんと中村酒造場へのリスペクトを込め、最上位クラスのなかむらをロックでいただいた。

芋焼酎特有の香りはありながらも、そこまでキツくはない。

 

飲んでみると、「あまく、やさしく、やわらかく」をもう達成しているのでは?と思ってしまった。
私は色んな芋焼酎を飲んできたが、確かに甘さをかなり感じる。

アルコールはしっかりと感じられながらも程よいところでとどまっており、味わいは非常に柔らかい。

 

ロックでチビチビ美味しくいただいた。

 

まとめ

いかがだっただろうか。

中村酒造場について、下記のことをまとめてきた。

 

・当時イメージの良くなかった日本酒の現場で働くことは、色々な意味ですごく勉強になった
・焼酎=強いお酒。おっさんが飲んでるイメージ
・芋焼酎は世界で一番健全な「大人のカルピス」
・本格手造り焼酎を名乗るための3つの条件
・年に数回しかない日本酒の大吟醸を仕込むレベルの作業が、中村酒造場では日常
・他の酒蔵がないがしろにする中、創業当時からずっと大切にしてきたアレ
・芋焼酎の旨味、甘味には油が大きく影響する
・リスペクトを込め、最上位クラスの「なかむら」をロックでいただいた感想

 

中村酒造場のお酒は、インターネット販売や直販はしていない。
しかし連絡すれば近くの酒販店をご紹介してもらえるので、気軽に電話してみてほしい。

 

中村酒造場

-, 雑学